サービスその3
「一体車屋と教師とはどっちがえらいだろう」
「車屋の方が強いに極きまっていらあな。御めえのうちの主人を見ねえ、まるで骨と皮ばかりだぜ」
「君も車屋の猫だけに大分だいぶ強そうだ。車屋にいると御馳走ごちそうが食えると見えるね」
「何なあにおれなんざ、どこの国へ行ったって食い物に不自由はしねえつもりだ。御めえなんかも茶畠ちゃばたけばかりぐるぐる廻っていねえで、ちっと己おれの後あとへくっ付いて来て見ねえ。一と月とたたねえうちに見違えるように太れるぜ」
「追ってそう願う事にしよう。しかし家うちは教師の方が車屋より大きいのに住んでいるように思われる」
「箆棒べらぼうめ、うちなんかいくら大きくたって腹の足たしになるもんか」
彼は大おおいに肝癪かんしゃくに障さわった様子で、寒竹かんちくをそいだような耳をしきりとぴく付かせてあららかに立ち去った。吾輩が車屋の黒と知己ちきになったのはこれからである。